夜、祭りから帰ってきた息子が、青いTシャツを広げて俺の前に立った。
「パパ、これ違和感わかる?」
背中に、白い筆文字で大きく「すきだっちゃ!!!! 気仙沼」と入っている。
しばらく見て、あ、と声が出た。
「さんずい、ない」
気仙沼が、気仙「召」になっていた。
Tシャツは24枚、段ボールでうちに届いた。祭りの1週間くらい前だ。
息子の仲間はもう気仙沼に住んでいない。まとめて頼むのに、実家の住所を使ったらしい。
他の人の分も入っているから、開けるわけにはいかなかった。ビニールに詰まったまま、上から眺めただけだ。
左胸に、ホヤぼーやが小さく入っている。こういうデザインなんだな、と思った。
背中に何か入っているとは、考えもしなかった。
祭りの前の日、息子が休みで帰省してきた。
「パパ、これどう?」
そう言って、Tシャツを着て、背中をこっちに向けた。
「おお、いいね。すごいね。デザイン誰が考えたの?」
「友達とみんなで話しながら、AIで考えたんだ」
いいねと言ったのは、俺だ。
祭りの当日、会場で段ボールを開けて1枚ずつ渡し、その場で代金も回収した。
だから全員、受け取るのと着るのが同時になった。背中は、自分では見えない。
はまらいんや踊りという。気仙沼みなとまつりで、数十年前から続いている参加型の踊りだ。
小学校も中学校も、銀行も、会社も、ただの友達同士の集まりも、団体ごとにおそろいのTシャツを作って、街を踊りながら進む。今年は雨の中を、50団体2,200人が踊った。
踊っている最中に、グループの誰かが気づいた。
「これ、おかしくね?」
気づいたところで、全員もう着ている。着替えはない。踊るしかない。
その日の様子は、YouTubeでも流れた。街の外の人も、そこそこの数が見たはずだ。
あとになって、写真を見返した。
下半分には波が描かれ、桜が散っていて、字の後ろを赤い丸が一周している。その右下に、小さな赤い枠があった。
はんこみたいな四角の中に、縦書きで「気仙沼愛」と入っている。
そっちの沼には、さんずいが付いている。
同じ1枚の中で、いちばん大きい字だけが間違っていて、いちばん小さい字は正しかった。正解は、最初から同じ背中に載っていたことになる。
みんなは、当日その場で受け取って、そのまま着た。俺は、前の日に、明るい部屋で、正面から背中を見た。それで、いいねと言った。
写真を撮って、Facebookに出した。「AIは万能ではない」と、一行だけ添えて。
いいねが48、コメントは17。普段はこんなにつかない。
ただし、17のうち半分は俺の返信だ。
コメント欄には、こんなのが並んだ。
「AIって日本語苦手ですよね」
「こういうの、意外と一瞬気付けないんですよね」
「私も一瞬、さんずいがないのに気づかなかった」
会場で撮ったという写真も上がってきた。踊る背中がいくつも並んでいて、どれも同じ字が抜けている。
終わりのほうに、こういうのがあった。
「AIぐらい使いこなせないとは情けないセガレですね。血筋ですかね?」
血筋だと思う。
この話を記事に書いていいかと聞いたら、息子は、全然いいよ、と言った。
みなさんにも、何度も見ていたのに気づかなかったこと、ありませんか?
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